ミハイル・プレトニョフ指揮、東京フィルハーモニー交響楽団のオペラシティ定期を聴いてきました。
今年度より東京フィルハーモニー交響楽団の特別客演指揮者に就任したプレトニョフ。
本来は4月の公演でお披露目になるはずでしたが、体調不良によるドクターストップで来日できず、公演中止。
半年越しでの就任お披露目公演となりました。
第97回東京オペラシティ定期シリーズ
リムスキー=コルサコフ/歌劇『不死身のカッシェイ』(演奏会形式)
指揮 : ミハイル・プレトニョフ
カッシェイ(テノール): ミハイル・グブスキー
カッシェイの娘(メゾ・ソプラノ): クセーニャ・ヴャズニコヴァ
美しい王女(ソプラノ): アナスタシア・モスクヴィナ
イヴァン王子〈バリトン〉: ボリス・デャコフ
嵐の勇士(バス): 大塚博章
合唱:新国立劇場合唱団
オーケストラ:東京フィルハーモニー交響楽団
ミハイル・プレトニョフとは
ロシアのピアニストといえば彼、ミハイル・プレトニョフの名をあげる人も多いでしょう。
1978年のチャイコフスキー国際コンクールで1位になるなど、輝かしい経歴を持つピアニストです。
最近は指揮活動を中心に行っていて、今年度からは東京フィルハーモニー交響楽団の特別客演指揮者に就任しました。
僕が東フィルのステージスタッフをやっていた10年ほど前に、日本で初めてプレトニョフが指揮をやるというので話題になったのをよく覚えています。
彼の弾くベートーヴェンのピアノ協奏曲は、僕がピアノ協奏曲を好きになるきっかけを与えてくれたほどで、個人的にもとても印象深い音楽家。
4月の就任コンサートが中止になってしまっていたので、今回の公演はとても楽しみにしていました。
ロシアのオペラ?
まず始めに、今回の演目『不死身のカッシェイ』をそもそも聴いたことがありませんでした。
超有名な管弦楽の魔術師リムスキー=コルサコフの晩年の作品でありながら、曲はもちろん、その存在さえも知らなかったのです。
日本でも上演されるようなことはなく、CDなどの音源も限られたものしかありません。
ロシアの作品の中で、劇場で行われる演目としてはバレエが非常に有名です。
チャイコフスキーの『くるみ割り人形』『白鳥の湖』、ストラヴィンスキーの『火の鳥』『春の祭典』など、クラシック好きなら一度は耳にしたことがある作品ばかり。
ところが、ロシアのオペラはあまり聴いたことがないという人も多いでしょう。
ムソルグスキーの『ボリス・ゴドゥノフ』、チャイコフスキーの『エフゲニー・オネーギン』『スペードの女王』、ボロディンの『イーゴリ公』などは聴いたことがあるかもしれません。
でも、実際に上演を見たことがあるという人はおそらく殆どいないのではないでしょうか。
それは、そもそも作品が少ないことに加えて、ロシアのオペラの場合は歌える人も限られてしまうからです。
ロシア語を歌える人は、ドイツ語やイタリア語に比べてかなり少ないと考えられるので、現地から呼んでくるしかありません。
予算の問題でなかなか難しいというのがロシアオペラの辛いところかもしれません。
プレトニョフのお披露目公演に、日本で知られていないこのオペラを持ってきたというのは、事務局してやったりというところでしょうか。
演奏会の感想
朝岡聡さんの巧みな前説
さて、マイナーな演目にどれだけの人が集まるのかと思いきや、平日の夜にもかかわらず9割方客席が埋まるという盛況ぶり。
プレトニョフ人気さすがといったところでしょうか。
どんな演奏会になるのかワクワクしていたところ、前説に登場したのはアナウンサーの朝岡聡さん。
プログラムノートにも全体のあらすじを書いているものの、朝岡さんの巧みな話術で、とてもわかりやすく話のポイントを解説してくれました。
この前説が非常に素晴らしく、公演中物語の理解をするときのガイドとしてとても助かりました。
朝岡さんブラボー。
日本では知られていないオペラだけに、前説を入れたのは事務局の妙でした。
不死身のカッシェイの物語
悪の帝王「カッシェイ」に囚われた王女。
カッシェイの秘密は、決して涙を流さない自分の娘の涙に「魂」を封印していること。
冷酷なカッシェイの娘は、王女を助けに行こうとする王子を誘惑して殺そうとします。
しかし殺そうとした王子を愛してしまい・・・
大体のあらすじはこんな感じですが、ポイントは「悪は愛や優しさに滅ぼされる」という、いわゆる勧善懲悪モノです。
民話を基にして、20世紀初頭に作られたという物語だけあって、なかなかツッコミどころ満載でした。
ヒロインの王女が悪役のカッシェイに歌わされる子守唄の歌詞が
「この悪爺死ね死ねはやく呪われてしまえ」
とかカオスだったり、
王女を助けに来た王子が
「カッシェイの弱点はまだわからないけど、この剣で道を切り開こう!」
とか、よくわからない自信満々だったり。
そんな内容でも、美しい歌と管弦楽によって演じられると、素晴らしいと感じてしまうのが芸術なのです。
深いですね。
演奏面の感想
プレトニョフのタクトさばきと、ロシア的な音楽表現はやっぱり素晴らしいと感じたし、何よりマエストロの存在感が演奏会を引き立てていました。
やはりクラシック界の第一線を走ってきた人は、華があるということを再認識させられました。
ソリストの歌はカッシェイの娘役のメゾソプラノ、クセーニャ・ヴャズニコヴァさんが好印象でした。
アリアがとても印象的に歌われるということもありますが、冷酷な性格でありながら王子に恋をして理性が揺れ動く様がよく現れていて感動しました。(ロシア語なので何言ってるかはさっぱりですけど!)
オケは今回、めずらしく木管のピッチが悪くて微妙なところがあったのが残念。
大規模編成ならまだしも、通常編成で乱れることはほとんどなかったので、ちょっと気になってしまいましたね。
まとめ
総じて満足度の高かった今回の公演。
ロシア語オペラの良さも感じることができたし、来年以降もプレトニョフの公演が楽しみになりました。
さて、次回の東フィルオペラシティ定期はしばらく開いて2016年1月。
井上道義さんでマーラーの4番。
4楽章のソプラノソリストは森麻季さんで、次回も非常に楽しみです!
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