3日間、純粋に観客として楽しみつつ、取材目線でもたくさんのことを観察したラ・フォル・ジュルネ2015。世界でも最大規模の音楽祭を肌で体験しつつ、いろいろなことを考え、学ぶことが出来ました。芸術や音楽をビジネスとしてとらえた時に、こんなにわかりやすくよい題材はありません。
先日、こんな記事がありました。
8年目「ラ・フォル・ジュルネ」閉幕 「あり方」見直しへ(中日新聞)
実行委員会は記者会見し、海外の古楽アンサンブルの公演の入場者が少なかったことから、二〇〇八年に始まった祭典のあり方を見直す方向になった。(中略)マルタンさんらが招く世界トップの楽団の入場者が少なかったのは、北陸での知名度が低いためだ。「パシオン・バロック」というテーマが分かりにくいとの声もあった。
ラ・フォル・ジュルネ金沢で行われた古楽器アンサンブルの有料公演の客入りが悪く、テーマ設定やプロモーションを見直そうという内容。地方の場合、「モーツァルト」などのわかりやすい内容のテーマや「東京フィルハーモニー交響楽団&チョン・ミョンフン」などの知名度の高いアーティストなら比較的観客を集めることができますが、コンセプトや実力派アーティストなどで集客することはなかなか難しいのです。
■地方の音楽祭開催が難しい理由
金沢市は人口約50万人、石川県の人口は約120万人。
ラ・フォル・ジュルネ金沢は開催期間3日間、200公演、動員数約12万人。
一方で東京都は人口1300万人、一都三県で人口3000万人。
ラ・フォル・ジュルネ東京は開催期間3日間、350公演、動員数約50万人程度(推定)。
さすが、音楽監督の井上道義さん率いるオーケストラ・アンサンブル金沢を擁する金沢市。人口比率で見れば、地方でもよく集客したとも見えますが、1公演あたりの動員数を考えると東京と2.5倍近くの差があるということになります。
ラ・フォル・ジュルネの地方開催にかかる費用は、国や自治体の補助があるとはいえ、規模が小さい方が費用的に厳しくなることは必至。(記事では総事業費1億7千万円とのこと)動員数をさらに増やすための策を練らなければ継続が困難になってしまいます。
有名音楽事務所のKAJIMOTOが全面協力していて、チケット販売は最大手の「ぴあ」が担当している、世界最大規模の音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ」を持ってしても、地方は苦戦を強いられているようです。
■芸術文化アンテナ格差
わたしも「香川県」に育ち、香川という地方都市の音楽業界を見つめていましたが、そもそもクラシックのコンサートで集客することが東京以上に難しいのです。以前わたしの恩師を含む、NHK交響楽団メンバーの室内楽コンサートが開かれたことがあったのですが、席を埋めることは叶いませんでした。ラ・フォル・ジュルネ金沢であったように、内容や実力だけでは、集客には必ずしも繋がらないのです。
地方では日頃、音楽や芸術に触れる機会が少ない上に、絶対的な公演数も少ないので、さらにその機会が失われ、興味が薄れていくというスパイラルに陥っていきます。地元に積極的に活動しているプロオーケストラや吹奏楽団、音楽大学や音楽高校があればまだ機会もありますが、そうでない場合はホール主催の招聘公演やアマチュアの自主公演くらいしか開催されないということになります。興味が少ない=需要が発生しにくいということが地方芸術の課題です。
一方で、東京は10を超えるプロオーケストラがあり、他にも吹奏楽や室内楽、サロンにレストランなど、いたるところに音楽や芸術が溢れているので、それだけ人々は自然にアンテナが高くなり興味を持ちやすくなるのです。こちらは逆に供給過多になりすぎて客が分散してしまうことと、演奏者まで供給過多になりすぎていることが課題です。
■「日本のクラシック」をたくさんの人へ
その土地の芸術や音楽への感心の高さは、一朝一夕で上げられるものではありません。その土地で生まれ、根付いた芸術や文化が少しずつ影響力を増して、そこに住む人々に浸透していくのです。だからこそ、地方に住む音楽家たちの活躍にも期待しますし、わたし自身も地方出身なので、地方に対しても芸術や音楽を広めていく活動をしたいと思っています。
日本にクラシック音楽が入ってきて、もうどれほどの時が経ったのでしょうか。もはや「外国の音楽」ではないと思うのです。「日本のクラシック」を日本全国で育てて、たくさんの人が楽しんでくれる世の中を目指していきたいですね。
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