最近いろいろな視点を身につけるため、広く音楽関連の書籍を読んでいます。
この本はクラシック入門者向けの本ですが、一般のクラシック音楽ファンだけでなく、音楽家の方にも参考になると思いました。
著者の中川右介さんは、評論家で『クラシックジャーナル』という雑誌の編集長さんでもあります。
評論家の方の意見は人によって偏りがあるものの、切り口やものの見方などはいろいろ参考にしています。
人の評論をすべて受け入れられるわけではないけれど、そこから何を学び取るかはその人次第。
そんなスタンスで読んでみました。
■クラシック音楽を聴くときのスタイルの提案
この本では「3時間でわかる入門書」ということで、ざっくりと
・クラシック音楽とはなにか?
・何(コンサート、CD)を聴けばよいのか?
・かんたんな音楽史(ベートーヴェンからカラヤンあたりまで)
といった感じでまとめています。
何を聴けばよいか?の問に対しては、CDでもコンサートでも「頂上」から聴くというスタンスを紹介しています。
現役のベルリン・フィルやウィーンフィルなどの超一流の公演を聴くことが、手っ取り早くクラシックの魅力を体験できるということと言っています。
そうでなければ、芸術的に途上にある現在の演奏家たちによる演奏会よりも、名盤と呼ばれるCDの数々(曲も演奏家も厳選されている名曲名演)を聴くほうがずっと効率がよいという見方もできました。
音楽史の項にあるのは、作曲家生きた背景や交友関係を交えながら、最終的なアウトプットとしての作品は「ベートーヴェンなら交響曲○番を聴くべし」といった紹介をしています。
この作曲家は何を聴けばいいのか?など、クラシック初心者の方にとって迷うポイントがカバーされていて、ひとつの「クラシック音楽の聴き方」のガイドになるでしょう。
音楽史の部分はわかりやすく書かれていて、指揮者の役割の変遷などの現在の「クラシック音楽」の成り立ちがよくわかって興味深い内容でした。
■所感
クラシックの入門者は頂点から聴く
というのは、「たしかにそうだ」と思う反面、反発する気持ちも感じました。
頂点にある音楽こそがすべてという(完璧主義のような)考え方をしてしまうと、若い演奏家や日本のほとんどのプレーヤーは意味のない存在となってしまいます。
クラシック初心者向けに書かれたものとはいえ、厳しい言葉に感じてしまいました。
わたしは若手演奏家を応援する立場なので、ぜひともそんな演奏会にも足を運んで欲しいという気持ちがあります。
本文中の事例で、音楽業界をメジャーリーグなどの野球に例えてあるのですが、裾野を広げてトップを押し上げるという意味でも、2軍3軍の人たちも活躍できる土壌が必要なのです。
メジャーと比較すると国内リーグは無意味かというと、そうではなくて、地元に根付いた球団にはファンがたくさんいて、温かい応援をしてくれるものです。
ただ「質」を求めるのではなく、その演奏者や楽団のファンになって、メンバーや音楽の成長をみながら楽しんでいくという関係をつくる必要も、一方ではなくてはならないと考えています。
そんな関係を作りながら、より高みを目指すようなあり方を探すことができると、若手演奏家のチャンスも広がっていくと思います。
入門者としての視点の復習だけでなく、そんな教訓や気付きも得ることができて、たくさん勉強をさせていただきました。
音楽史の部分などの切り口はおもしろいと感じたので、同じ著者の本を何冊か読んでみようと思います。
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