
きっかけは些細なことだった。
昨年の12月に転職した僕は、忙しく緊張感のある毎日を過ごしていた。
年末に差し掛かったある日、友人から飲みのお誘いがあった。
久しぶりに会いたいと思い、合流することにした。
馴染みの店には、手伝いに来ていた別の友人の顔もあって、一緒に楽しいお酒を楽しんだ。
転職のお祝いと言ってワインを開け、グラスを鳴らす。
気のおけない友人たちと、それぞれの近況報告で盛り上がっていった。
そこでたまたま、マッチングアプリの話題になった。
友人(女性)が海外旅行中に、外国人から勧められたらしい。
マッチングアプリとは、恋活や婚活などに使われるもので、いわゆる”出会い系アプリ”というやつだ。
「あぁ、それ知ってるかも。」
そのアプリの名前は聞き覚えがあって、そういえば何年か前に使ったことがあったことを思い出した。
海外産のサービスで、ひたすら表示される写真を見て⚪︎×をつけていくという、極めてシンプルな仕組みだ。
お互いに⚪︎を送り合うと、メッセージ交換などができるようになる。
そのときは胡散臭さが先行して、なんだかよくわからないうちにやめてしまった。
当然、アプリ内で女性とメッセージをやりとりをすることもなかった。
『今使ってみたら、どうなるだろうか。』
ふと、そんな思いが頭をよぎった。
転職をした僕は、新しい生活を楽しんでいた。
サラリーマンとしてのキャリアアップを選んだ僕は、派遣社員から正社員に戻った。
転職先の会社には破格の待遇で受け入れてもらい、結果として収入も上がった。
客観的に見ても成功したと言える結果を出せたことで、自信もついた。
転職活動中、自分自身にとことん向き合う中で、今後の生き方についても考えていたところだ。
忙しく緊張感のあるこの毎日に、癒やしがほしい。
一人の生活も楽しめるけれど、たまには話をする相手がほしくなることも、人肌が恋しくなることもある。
この先長い人生を、共に人生を歩んで行けるパートナーがいてくれたなら。
以前より収入も増えたし、婚活市場での価値も上がったんじゃないか。
少し前からそんなことを考えていた僕は、お酒の勢いもあって、そのマッチングアプリをインストールしてみた。
以前使っていたときのアカウントが残っているようだったので、すぐにログインできた。
久しぶりに開いたそのアプリの画面には、以前のようにたくさんの女性の写真が表示されている。
「やっぱりなんか胡散臭いけど、久しぶりにこういう活動もしてみるのも、いいか。」
スキマ時間を使っては女性の写真を眺めるというスタイルから、僕の婚活はスタートしたのだった。
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